☶59〕─5─北朝鮮の恫喝に曝され、核の恫喝に屈すれば、日本は近代国家たり得ない。~No.489No.490No.491No.492 @ 

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 2017年10月4日 産経ニュース「【正論】北朝鮮の恫喝に曝され、核の恫喝に屈すれば、日本は近代国家たり得ない 東洋学園大学教授・櫻田淳
 櫻田淳東洋学園大学教授
 日本列島を飛び越す2度のミサイル発射や6回目の核実験を経て、この1カ月あまりの間、北朝鮮情勢の一層の緊迫が語られてきた。日本にとって北朝鮮情勢に絡む「最悪事態」とは「朝鮮半島が火を噴き、日本も火の粉を被(かぶ)る」事態を指すのか。それとも「北朝鮮が核・ミサイル開発を成就させ、絶えず日本が北朝鮮の恫喝(どうかつ)に曝(さら)されるようになる」事態を指すのか。この点はきちんと考えておいた方が宜(よろ)しかろうと思われる。
 一般的には、「最悪事態」は、前者の事態を以(もっ)て語られるかもしれないけれども、日本の人々は、後者の事態を耐えることができるのであろうか。
 ≪米国の信条に対する敵意の表明≫
 目下、ドナルド・J・トランプ大統領下の米国政府が示す対朝姿勢の背景にあるのは、「北朝鮮から核の脅迫を受けながら生きる事態を米国は甘受しない」という認識である。そもそも、北朝鮮は中露両国と同様、カール・A・ウィットフォーゲル(歴史学者)が呼ぶところの「東方的専制主義」(oriental despotism)の様相を色濃くする国家である。こうした「専制主義」の相貌を持つ北朝鮮は、「(核攻撃手段の誇示によって)米国本土までが阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄と化した」という類いの言辞を折々に披露している。
 それは、北朝鮮の立場からは、金3代体制という「国体」を護持するための対米牽制(けんせい)を意図するものであったとしても、米国の立場からは「自由・民主主義・人権・法の支配」に絡む自らの信条に対する敵意の表明に他ならない。「理念の共和国」と称される米国は自らの価値が脅かされた局面において、その対外姿勢は特に強硬になる。
 実際、米国の外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』(2017年6月号)に掲載された論稿「北朝鮮に対する強硬策を−外交やエンゲージメントでは問題を解決できない」には、次のような記述がある。「北朝鮮の非核化を平和的に実現するための残された唯一の道筋は、『核を解体し、改革を実施しない限り、滅亡が待っている』と北朝鮮に強く認識させることだろう。そのためには、容赦なき政治的後方攪乱(かくらん)と金融孤立に向けたキャンペーンを展開する必要がある」
 金正恩朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と揶揄(やゆ)するようなトランプ大統領の言辞に幻惑され、実際の対朝政策展開もが彼一流の「暴走」や「逸脱」の所産だと誤解しないことが、大事であろう。
 ≪「対話」求める声が沸騰するのか≫
 そして、「北朝鮮から核の脅迫を受けながら生きる事態を甘受できない」のは、米国だけではなく日本にとっても同じはずである。北朝鮮は、彼らが米国の「追従勢力」の筆頭と見ているらしい日本に対しては「日本列島四島を核爆弾で海に沈めなければならない」と既に威嚇している。
 また、北朝鮮が核・ミサイル開発成就の暁には、その「核の恫喝」を米国に対してではなく、まず日本に対して向けるであろうというのは、平凡な予測にすぎない。具体的には、北朝鮮が「核の恫喝」を背景にして戦時賠償の名目で10兆円を序の口として日本に要求するような挙に走ったとしても、それ自体は驚くに値しない。
 それにもかかわらず、「平和主義」感情が横溢(おういつ)した日本では、「北朝鮮から核の脅迫を受けたとしても、生きていられればいい」と反応する空気は残るのであろう。こうした空気の上で事態がいよいよ切迫すれば、「とにかく対話を」とか「対話を切り出さない首相が悪い」とかという声が沸騰するであろうというのも、平凡な予測である。
 ≪恫喝に屈すれば国家の資格喪失≫
 しかし、そうした声が勝り、日本が「核の恫喝」に屈してしまえば、その時点で日本は「近代の価値」を奉じる国家としての資格を喪失することになる。それは、日本が「自らの『自由』の価値のためにすら闘わなかった」ことを意味するからである。
 二十余年前、高坂正堯教授(国際政治学者)は、遺稿の中で「安全保障政策の目的は、その国をその国たらしめている価値を守ることにある」と書いた。高坂教授の認識を踏まえるならば「日本を日本たらしめている価値」とは、近代以前の永き歳月の中で培われた「八百萬(やおよろず)の神々」の価値意識と、近代以降に受容した「自由・民主主義・人権・法の支配」の価値意識の複合であるといえる。「朝鮮半島の核」は、そうした価値意識に彩られた社会を次の世代に残せるかということを、当代の日本の人々に問うているのである。
 この度の解散・総選挙には、朝鮮半島情勢が一瞬にせよ「凪(なぎ)」に入ったという安倍晋三首相の判断が反映されていよう。
 しかしながら選挙後、朝鮮半島情勢の「嵐」が本格的に訪れる局面を見越すならば、「日本を日本たらしめている価値」の確認は大事になる。それは、日本の人々にとっては、来る「嵐」を前にして自らを見失わないための「縁(よすが)」になるであろう。(東洋学園大学教授 櫻田淳 さくらだ じゅん)」


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