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現皇室は、「蟻の穴から堤も崩れる」の危機的状況に追い込まれつつある。
2019年9月2日 朝日新聞「HTVL-1の感染者はなぜ九州や沖縄の海岸部に多い?
アピタル・酒井健司
前回ご紹介したHTVL-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)は、あまり感染力が強くありません。性交渉で感染することもありますが、その危険性はそれほど高くなく、感染は主に母乳を介して起こり、対策をしなければ感染の確率は約20%とされています。ということは、計算上は一世代ごとに感染している人の割合は5分の1に減り、十世代も経てばウイルスは自然消滅するはずです。ただ、感染の確率約20%というのは現代のデータであって、人工乳などなく授乳期間が長かった過去の時代においてはもっと高い確率で母子感染が起こっていたのでしょう。
感染力があまり強くなく、主に母子感染するというウイルスの性質を考えると、今の時点でウイルスに感染している人たちの母親、祖母(母親の母親)、曽祖母(祖母の母親)もウイルスに感染していた可能性が高いと考えられます。もしかすると、HTVL-1に感染している日本人の母系をたどると、1人あるいは少数の女性にたどりつくかもしれません。
HTVL-1に感染している人の割合は日本の西南部、九州や沖縄に多いことがわかっています。さらに興味深いことに、海岸線に沿って中国地方の日本海側、四国の太平洋側、紀伊半島、北海道や東北にもウイルス保有者が多い地域があります。また、離島に多い一方で内陸部では少ないのです。これはおそらく、海岸線を伝って人の移動があったことを示しています。ウイルスの感染割合の分布パターンから日本人の起源を探るという研究があるぐらいです。
最近、丸木舟で台湾から与那国島までの航海に成功したというニュースがありました。HTVL-1は性交渉によって男性から女性に感染することもあります(女性から男性には感染しにくい)。HTVL-1キャリアは中国東部や韓国ではまれで、東アジアで感染者が多い地域は日本以外では台湾ぐらいです。母系ではなく、黒潮に乗って海を渡ってきた男性がウイルスを保持していて、子孫に伝わったのかもしれません。想像は尽きません。
ちなみに、佐賀県玄海町で成人T細胞白血病が多いことを原子力発電所のせいではないかと疑われたことがありましたが、佐賀県では玄界灘の海岸線に近いほどHTVL-1の感染割合が高いことで説明可能です。原子力発電所のせいだと仮定すると、発電所がなくHTVL-1の感染割合が高い地域で成人T細胞白血病が多いことや、発電所があってHTVL-1の感染割合が低い地域で成人T細胞白血病が少ないことを説明できません。
日本の西南部以外では、カリブ海周辺、熱帯アフリカの一部、イランなど中東の一部、ニューギニアなどのオセアニアに一部においてHTVL-1の感染率が高いことが知られています。なぜこのような分布なのか、詳しいことはわかっていません。いまでは、人類の移動や共通祖先を探るために、ウイルスではなくヒト自身のDNAを解析・利用できます。人類全体の母系の共通祖先、いわゆるミトコンドリア・イブが約16万年前のアフリカにいたとされる仮説も、ヒトのミトコンドリアDNAの解析によります。ヒトDNAのほうがウイルスより得られる情報は多く正確です。ただ、医学以外の目的でウイルスを研究することにも私はロマンを感じるのです。
※参考:ウイルスから日本人の起源を探る (https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm1952/46/6/46_6_908/_pdf)
《酒井健司さんの連載が本になりました》
アピタル・酒井健司(さかい・けんじ)
内科医
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。」
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