☵62〕─1─2022年韓国大統領選挙。大統領候補の止まらない日本批判。~No.479 

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・   
 2021年11月17日06:00 MicrosoftNews JBpress「「日本は友邦国家なのか」韓国・李在明氏の止まらない日本批判
 © JBpress 提供 李在明氏(写真:AP/アフロ)
(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使
 来年3月に韓国の大統領選挙が行われる。もしもそこで与党「共に民主党」の大統領候補・李在明(イ・ジェミョン)氏が当選すれば、日韓関係ばかりでなく、米韓関係も取り返しのつかないダメージを受けることになりそうだ。
 現在の文在寅大統領は、日韓関係を最悪の状態に陥れた。慰安婦問題に関しては日韓両政府間の合意を覆したし、徴用工問題ではすでに解決済みの個人請求権の問題を再度提起し、日本企業の資産を差し押さえ売却する道を開いた。文在寅政権になってからの日韓の政治関係は、少なくとも日本側からすれば「史上最悪」の状態となった。
 だが李在明氏が大統領になれば、日韓関係はそれ以上の事態に直面することになるだろう。李在明氏は、慰安婦、徴用工という個々の問題ではなく、日韓関係の在り方そのものに“チャレンジ”してくる可能性があるからだ。そうなれば、もはや両国の関係は根本から覆され、国交正常化そのものを否定する議論まで巻き起こされかねない。
 批判の矛先は米国にも
 悪化するのは日本との関係だけではなく、米国の関係にも及びそうだ。李在明氏は米国上院議員に対して、日本による大韓帝国の併合には「米国の責任があった」と主張し、「解放後の進駐軍は占領軍だった」と発言している。この考えは、「日米韓」の協調体制そのものを棄損しかねないものだ。
 その李在明氏は、共に民主党予備選挙で辛うじて過半数を獲得し、党の大統領候補として指名を受けることに成功したが、世論調査を見る限り、野党側の有力候補との競争では先行を許している。そこで形勢逆転を狙う李在明氏は、「反日的発言」を一層激化させている。それらの言葉がどこまで李在明氏の信念から出た発言なのか、あるいは支持獲得のための単なるリップサービスなのかどうかについては、今後の同氏の行動を見る必要があるが、いずれにしても李在明氏が大統領となった場合には、日韓関係は一触即発の状態になる可能性がある。
 いったい李在明氏は何を考え、韓国をどこに導こうとしているのだろうか。
 「韓国が日本に併合されたのは米国の承認のせい」
 李在明氏は12日、韓国を訪問した米国のジョン・オソフ上院議員と面会した席で「韓国が日本に併合されたのは、米国が桂・タフト協定によって承認したから」と述べた。「桂・タフト協定」は、1905年米国が日本と締結した“密約”で、米国のフィリピン支配権と日本の大韓帝国支配権を相互承認した「約束」だ。
 李在明氏は「韓国は米国の支援と協力によって戦争に勝ち、体制を維持することができた。そして経済先進国として認められるという成果をあげた。しかし、この巨大な成果の裏には小さな陰がありうる」と述べた後、上記の発言をしたのだ。
 さらに李氏は「結局、のちに日本が分断されたのではなく、戦争被害国である朝鮮半島が分断され、戦争の原因になったということは、否定できない客観的事実」と、以前にも言及している日本の「朝鮮半島分断責任論」に再度触れて見せた。
 オソフ議員は、李在明氏の主張にやんわりと反論した。
 「昨日は戦争記念館を訪れ、韓国軍と共に戦った国連軍だけでなく、米軍の参戦兵士を称えるために花をたむけた。両国の同盟がいかに重要か改めて悟った」
 こう述べて朝鮮戦争における米軍の犠牲を強調したのは、李氏の発言に対して不快感を覚えたからだろう。
 韓国内でも李氏に対する批判が巻き起こっている。そもそも米韓同盟を強調するために訪韓した米国上院議員との面談の席で、あえて「米国責任論」に言及する外交センスを問題視している。
 野党「国民の力」のホ・ウナ首席報道担当は論評の中で「反米感情を米国の上院代表団に説教するようにはばかりなくあらわにする態度には、驚愕せざるを得ない」「米上院代表団の訪問目的に冷や水を浴びせる深刻な外交的欠礼」「李候補が当選すれば、韓米同盟に深刻な亀裂をもたらすだろう」と強い懸念を表明した。
 また、保守系メディアの朝鮮日報は「『解放後の韓半島に進駐した米軍は占領軍だった』との発言に続き、今回再び『外勢と自主』の構図を通じて米国に角を立て、支持層の結集に乗り出したようだ」だと非難した。
 革新系のハンギョレ新聞でさえ、国内の批判的コメントを紹介している。韓国内のメディアは、この件について李在明氏への批判一色の様相なのだ。
 李在明氏、大韓民国の国体まで否定
 もともと李在明氏は、反日的発言とともに、反米的発言も繰り返ししてきた。
 7月に大統領選挙出馬を表明した直後には、「大韓民国は他国の政権樹立段階とは異なり、親日清算ができない状態で親日勢力が米占領軍と合作し、再びその支配体制をそのまま維持した」と発言したことがある。
 この発言に対し、朝鮮日報は「『大韓民国親日勢力によって建国』『米軍は占領軍』という認識を明確にしたもので、これによって大統領選挙で歴史論争に火が付く見通しとなった」とその発言の異様さを指摘した。
 李在明氏は17年に出版した自叙伝の中で、「朝鮮半島に入城した日本軍はずっと駐屯して国政に関与し、ついに明成皇后(注:閔妃)を殺害し、第二次日韓協約と植民地支配につながる野望と欲望のプロセスを進めていった」「もちろん現在の北朝鮮と朝鮮末期の東学軍を単純比較はできないが、問題は米国も当時の日本と同様に朝鮮半島から決して撤収しない点だ」と指摘していた。
 李氏のこうした主張を改めて確認してみると、彼が大統領になったならば「在韓米軍の撤収」を求めることも考えられる。そうしたことになれば、東アジア全体の平和と安定を脅かし、日本の安全保障を脅かすことになる由々しき事態となる。
 ただ日本がしっかりと認識しておかなければならい事は、彼が米国以上に敵愾心を抱いている相手が、日本であるということだ。
 李在明氏は今月10日、韓国のメディア団体主催の討論会に出席した際にも日本に対する警戒心を吐露している。日米韓3国による軍事同盟結成の是非について聞かれた際に「当然反対する」と明言したうえで、「米国と軍事同盟を結んでいるが日本を入れるのは慎重に考慮すべき問題」と否定的立場を強調したのである。
 さらに李氏は「日本はどんな時でも信用することのできる完全な友邦国家なのか」「独島(竹島の韓国名)は歴史的に韓国の領土であることは明らかなのに、繰り返し日本が問題提起するのはトリップワイヤー(仕掛け線)にする可能性があるのではないか」とも付け加えた。
 彼の腹の中では、日本は完全に「敵対国家」になっているようだ。
 このニュースを伝えた共同通信は、「李氏は過去にも韓国紙に『日本の大陸進出の夢が武力的に噴出するときに備えなくてはいけない』と述べており、改めて日本への不信感が浮き彫りとなった」と論じている。
 これだけ日本に対する不信感を強調している李在明氏が、大統領選に勝利した途端にその主張を対日融和に転じることはありえまい。やはり「李在明大統領」の下では日韓関係の改善は期待できなさそうだ。
 驚愕、日韓国交正常化をも批判
 先述したように、かつて李在明氏は「大韓民国は他国の政権樹立段階とは異なり、親日清算ができない状態で親日勢力が米占領軍と合作し、再びその支配体制をそのまま維持した」と述べている。
 戦後75年以上が経ち、大韓民国が樹立されてから70年以上が経っている。しかも、その大韓民国朴正熙大統領時代の「漢江の奇蹟」を契機として世界10位以内に入る先進国となっている。しかし李在明氏は、過去の弱かったころの韓国が、歴史清算をしないまま日本と国交正常化したことに対して、当時の大韓民国の指導者を批判している。要するに、日韓国交正常化を評価しないばかりか、その政治決断そのものに疑問を投げかけているのである。
 筆者もJBpressで解説したが、李在明氏は7月2日の記者懇談会で「侵略国家である日本が分断されなければならないが、日本に侵略された被害国家である我々がなぜ分断という憂き目にあわなければならないのか」と発言した(「分断されるべきは日本だった」韓国のトランプの危険な歴史認識https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65956)。今回の米上院議員に対し述べた朝鮮半島分断の責任論もその延長線上にある。どうやらこれらは李在明氏の「本音」ととらえてよさそうだ。
 韓国が北朝鮮と分断されたことは不幸なことで、決してあってはならないことであった。だが、分断されるべきだったのは朝鮮半島ではなく、日本であったという発言は、他国の不幸を望む言葉であり、決して発してよい言葉ではない。こうした発言を見ると、李在明氏の狭量さ、感情的な人間性が窺い知れる。
 同じ共に民主党の丁世均(チョン・セギュン)前首相でさえ、李在明氏の発言について、「民主党の大統領たちは一度もこのような形の不安な発言をしたことはない」「党を代表する候補者になるには備えるべき基本的な安定感が必要だ」と懸念を表明したほどだ。これは大統領候補としての適性が疑わしいと言われたに等しい。
 李在明氏のオソフ議員への発言やこれまでの発言から、李在明氏は日韓併合、日韓国交正常化に対し不満を抱いているのは間違いない。そうした人物が大統領となり、その不満を持ち続けるとしたならば、未来志向の日韓関係の構築は望むべくもないだろう。
 京畿道知事時代には親日残滓清算プロジェクトを展開
 京畿道知事だった李在明氏は、2年前から京畿道で「親日清算」プロジェクトを立ち上げてきた。同氏は「生活の中に深く根差す親日文化を清算したい」として、京畿道内の有形・無形親日残滓調査に着手し、これに関する学術研究も外部に発注した。その結果として、昨年8月、親日人物257人、親日記念物(記念碑など)161点、親日人物が作った校歌89曲などの調査結果を発表した。それを踏まえ、京畿道内の各学校に対して「修学旅行」「遠足」などの用語は「日帝残滓」であるとして、それぞれ「文化探訪」「現場体験学習」に変更すべきと通達するなど、道内に残る「親日」要素の徹底排除に動いたのだ。
 こうした活動歴からも分かるように、李在明氏の政治的信条の原点は、韓国は「親日勢力が作った国」であり、現在もその影響は拭い去られていない。だからこそ自分は政治家として、そして大統領候補として、その影響を取り払うべく、反日発言や行動を繰り返している、ということなのではないだろうか。
 もちろん問題視しているのは、韓国内の「日帝残滓」だけではない。
 李在明氏は日本が竹島の領有権を主張していることに対しても「いつか大陸に進出するとき、トリップワイヤーにするためではないか。日本に対し警戒を緩めてはいけない」と主張している。そのため東京オリンピック聖火リレー地図に竹島が表記されていたことに抗議し、韓国には東京オリンピックのボイコットを求めた。
 また当然ながら、日本政府が福島第一原発の処理水の海洋放出を計画していることに対しても激しく噛みついている。
 「これまで体験したことのない大災害が繰り広げられるように放っておいてはならない」
 「国際法を尊重し常識的な判断が可能な国でした結論だとは信じられない」
 韓国の専門家も福島第一原発の処理水が大きな影響を及ぼすことはないと否定しているのだが、そのことを意図的に無視し、このような主張を繰り返しているのである。
 このように李在明氏は、事あるごとに強硬な対日姿勢を繰り返している。それは客観的な事実に基づかず、「現在の韓国は“親日残滓”の結果である」との思いと感情的な反発から出ている。李在明氏がいかに日本のメディアからの質問に「私は日本を憎んだり、日本国民に反感を持っていない」などと答えたからと言って、これを額面通りには受け取ることはできない。
 李在明氏が大統領となれば、文在寅大統領時代以上に日韓関係は悪化するだろう。むしろ日本との摩擦を強めていくことこそが李在明氏の政治スタンスと言っても過言ではない。東アジア地域の安定を考える時に、これは日本や米国に取っては頭の痛い問題になる。
 尹錫悦氏との間で繰り広げられる日韓関係論争
 一方、韓国の野党サイドの大統領候補となっているのが尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検事総長である。
 その尹錫悦氏と李在明氏との間でいま、対日・対米関係についての論争が展開されている。
 きっかけは、尹錫悦氏が12日に、ソウル外信記者クラブ招請記者懇談会に出席した際に、朝日新聞記者からの質問に対して発した答えだった。尹氏は「現政権に入ってから対日関係が存在するのかというほど外交関係が失踪した状況だと把握している」と文政権の外交スタンスを批判、「1998年に日本首相が過去の植民地の部分について誠意を持って謝罪し、さまざまな協力を進めていこうといったが、韓日の協力がうまくいかず韓米関係に問題が生じた時、金大中(キム・デジュン)-小渕宣言が後退する結果が出たりした」と指摘したのだ。
 こうした発言を見る限り、尹氏は日韓関係の再構築に前向きだ。少なくとも、過去の植民地支配への謝罪と両国の未来志向の関係発展を表明した日韓共同宣言の時点にまで両国関係を改善しようという意志が汲み取れる。
 だが、この尹氏の発言に李在明氏はすぐに噛みついた。
 © JBpress 提供 『文在寅の謀略―すべて見抜いた』(武藤正敏著、悟空出版)
 「原因と結果を誤って理解している」とし、「金大中前大統領は未来のための協力を提案したが、それがまともに進んできたなら日本政府や多数世論の立場は変わっていなかったはず」「韓日間の関係が円満で未来のための協力体系がよく作動したとすれば、過去の問題をめぐる日本国民と政府関係者に対する認識が変わっていたはず」などと主張したのだ。
 しかし、小渕・金大中宣言に関する認識について、大統領に同行した崔相龍(チェ・サンニョン)元駐日韓国大使は次のように述べている。
 崔元大使に寄れば、パートナーシップ宣言のポイントは歴史条項と文化交流条項であるという。歴史条項は1995年の村山談話における「わが国(=日本)は、遠くない過去の一時期、(中略)植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」の部分を「我が国(=日本)が韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えた」というように、国名を入れて文書化、具体化したことが大きな前進だった。また文化交流条項は、日本の大衆文化の韓国市場への公開を明文化したことだ。
 さらに金大中氏は、日韓共同宣言発表直後に、日本の参議院本会議場で演説し、日本をこう評価した。
 「第二次大戦後、日本は変わった」
 「日本国民は汗と涙を流して、議会民主主義の発展と共に、世界が驚く経済成長を遂げた」
 「人類史上初めて、原爆の被害を体験した日本国民は、常に平和憲法を守り、非核平和主義の原則を固守してきた」
 日本が、かつて韓国に苦痛を与えていたことを認め、韓国側も日本の戦後の歩みを評価する。そして双方で文化交流を促進する。これが日韓共同宣言の核心だ。実際、これをきっかけに日韓関係は好転した。
 歴史条項のポイントは、日本が民主国家になったことを認定し、歴史問題に決着をつけるということだろう。もしも韓国側が繰り返し歴史問題を持ちだすようになれば、日本もこれに反駁することになる。それを繰り返さないために、歴史問題に線を引き、お互い前向きに進んでいこうとするのが小渕元首相と金大中元大統領という2人のリーダーが共同で絞り出した知恵だった。
 © JBpress 提供 1998年10月8日、小渕恵三首相と金大中大統領が日韓共同宣言に署名した。宣言には、日本による植民地支配により韓国民に多大の損害と苦痛を与えたことに対する反省と謝罪のことばが盛り込まれた(写真:ロイター/アフロ)
 しかし、現在の李在明氏の言動は、自身への支持獲得を目的に反日を煽り、先人が遺した知恵を一気に台無しにしようとするものだ。日本の右翼勢力を批判することで韓国内の反日感情を煽り、それが日韓関係を拗らせている。
 韓国民の冷静な判断を望む
 尹錫悦氏は自身のフェイスブックに「自虐的な歴史歪曲、絶対に許せない」という見出しで次のような書き込みを死、李氏の歴史認識を強く批判している。
 「光復会長の『米軍は占領軍、ソ連軍は解放軍』という荒唐無稽の妄言を、次期有力候補の李在明知事も受け継いでいる」
 「大韓民国の正当性を否定し、歴史の断片だけを強調して脈略を無視する勢力は、大韓民国を誤った理念に追従する国家へ変えようとしている」
 尹氏はこう批判するが、李氏の主張に賛同する国民が一定数いるのもまた事実なのである。
 これから大統領選に向けて韓国では、李在明氏の対日認識を巡る歴史論争は一層盛んになっていくだろう。その論争を通じ、李在明氏が進めようとしている対日政策が果たして本当に韓国の未来のためになるものなのか、韓国国民には冷静に判断してもらいたい。」
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 11月17日11:33 MicrosoftNews Reuters「竹島上陸が事実なら到底受け入れられず、韓国に厳重抗議=官房長官
 © Reuters/Yuriko Nakao 竹島上陸が事実なら到底受け入れられず、韓国に厳重に抗議した=松野官房長官
 [東京 17日 ロイター] - 松野博一官房長官は17日の記者会見で、韓国の警察庁長官島根県竹島(韓国名・独島)に上陸したとの報道に関連し、「上陸が事実なら到底受け入れることはできない」と述べ、16日に韓国側に厳重に抗議したと明らかにした。竹島は韓国が実効支配し、日本も領有権を主張している。
 共同通信などによると、韓国の金昌龍・警察庁長官が16日、竹島に上陸した。現職長官による上陸は約12年ぶりという。松野官房長官は「諸般の状況から上陸が行われたものと考えられるが、現時点で韓国政府から確認は得られていない」と述べた。日本政府は15日、事前報道を受けてただちに計画の中止を韓国政府に申し入れていた。
和田崇彦 編集:田中志保)」
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 11月17日06:00 MicrosoftNews ダイヤモンド・オンライン「韓国・文政権の「自主国防思想」で日本が標的になる恐れ、元駐韓大使が解説
 © ダイヤモンド・オンライン 提供 「国軍の日」式典で演説した文在寅大統領   Photo:Pool/gettyimages
 国防力を急速に高める
 文政権の危うい目的
 文在寅大統領は、韓国の国防力を急速に増大させている。これは革新系政権に共通することであるが、文在寅政権には特にその傾向が著しい。これは米軍に頼らない自主国防力の強化を目指すものではあるが、その目的が危ういと言わざるを得ない。
 米国としても、韓国が自主的に国防力を高め、米国の負担を軽減することは基本的には歓迎すべきことである。また、在韓米軍を中国の脅威の抑制や地域の安定のためなどに回すことも可能になる。
 しかし、文大統領の真の意図が、国防における米国依存をやわらげ、北朝鮮に対する政策の自由度を上げるためであるとすれば、それは別の話である。真に国防を第一に考えるならば、南北軍事合意によって韓国の国防力を一方的に弱める行為はつじつまが合わない。
 文大統領は在任中に戦時作戦統制権の返還を実現しようと米国に働きかけてきた。現実問題として任期中というのは時間的に厳しくなってきたが、目標を取り下げたわけではないだろう。
 文大統領は北朝鮮との終戦を宣言しようと画策しており、米国には相談もせず一方的に提案した。だが、米国は終戦宣言がもたらすインパクトを見極めようと慎重に検討しており、今のところ文大統領の希望に沿う様子はない。文大統領が最終的に期待しているのは、終戦宣言を契機とする金正恩委員長との首脳会談であり、関係改善である。
 来年の韓国大統領選挙で、革新系与党「共に民主党」の次期大統領候補である李在明(イ・ジェミョン)氏が大統領となれば、軍事力の強化は日本の極右(自民党政権を右翼政権とみているのではないか)に対抗するための軍備拡大という意味合いが強くなるであろう。
 いずれにせよ、韓国の革新系による国防力強化の最大の意図は、韓国の自主性を高め、在韓米軍に頼らない国防力を磨くことで、北朝鮮との関係改善をより強力に進めることにあるのではないかと疑われる。
 韓国の国防予算は
 すでに日本を超えている
 韓国政府が発表した2022年の政府予算案では国防費は前年比4.5%増の55兆2277億ウォン(約5兆3000億円)となり、日本の21年度防衛予算と並んだ。日本政府は、物価などを考慮した購買力平価で換算すると、日韓の防衛予算は18年の時点で逆転していたとみている。
 韓国政府は国防中期計画では年平均6%を超える増額を予定しており、23年には実額で日本を上回る可能性がある。
 現在の韓国の国防費は対国内総生産GDP)比で2%を超える。この予算規模は、北朝鮮軍事境界線を挟み向かい合う韓国であれば、必要な支出とみることができる。現に国防予算の多く部分は北朝鮮への対応に配分されている。
 文政権が予算を編成した5年間の伸び率は37%となった。これは李明博政権の29%、朴槿恵政権の17%を大幅に上回るものである。一方、文大統領と同じ革新系の盧武鉉政権下では国防予算の伸び率は53%であった。これを見てわかる通り、国防予算の増額は、北朝鮮に融和的な革新系でより大きい。これは外部の者からすると不思議な現象であり、その意図を分析することが必要となる。
 これは革新系が、過度な米軍依存からの脱却を目指す「自主国防」の意識が強いためではないか。しかも、韓国経済は現在、コロナ禍の影響でほとんど成長がない。そうした状況の中での防衛費の増額には重大な目的があると考えるのが自然であろう。
 では予算の増額によって強化されるのはどの分野か。
 22年の予算では、ミサイル発射の兆候を探知して先制攻撃を加える「キルチェーン」と呼ぶ攻撃体系の完成を目指している。これは北朝鮮の相次ぐミサイル発射を受けたものだ。
 米軍のステルス戦闘機「F35B」が離着陸可能な軽空母の研究費も計上されている。ただ、北朝鮮と対峙(たいじ)するためだけを考えれば、軽空母の導入は理解できない。
 さらに、中長期では小型監視衛星の打ち上げや無人偵察機の導入で、米軍に頼らない情報収集体制の構築を目指している。先月には純国産ロケット「ヌリ号」の打ち上げに成功。ダミー衛星の軌道投入には失敗したが、22年5月に予定する2号機の打ち上げでは実際の衛星を搭載する予定だ。文大統領によれば今後10年で100基以上の衛星の打ち上げを計画している。情報収集能力の向上は、戦時作戦統制権の返還のためには必要であろう。
 韓国は9月7日、潜水艦発射弾頭ミサイル(SLBM)の水中発射実験に成功したことを明らかにした。報道によれば近く実施する飛行実験を経て実戦配備に向けた態勢に入るという。これは、SLBMを開発している北朝鮮に対抗する意味合いがあろう。
 文政権が軍事力を高める
 三つの理由
 韓国の革新系政権は北朝鮮に融和的である。2018年9月19日平壌において行われた、南北首脳会談の際に南北軍事合意が締結された。そこでは大規模軍事演習について南北で協議するとしている。これによって米韓の合同の部隊を動かす実戦演習は中止している。また、非武装地帯の上空では、民間航空機や貨物機を除く、すべての航空機を対象にした飛行禁止区域が設定され、38度線付近の偵察飛行は中止した。ただ、実際には北朝鮮軍は偵察飛行をほとんど行っておらず、実際に影響を受けるのは米韓連合軍だけである。
 この合意によって米韓連合軍の防衛体制に悪影響が及んでいることを文大統領はどう考えているのだろうか。
 北朝鮮は非武装地帯の最前方監視所の試験的撤去を除き、合意に非協力であり、昨年には金与正談話で合意破棄を警告したことがある。しかし、韓国はきゅうきゅうとこの合意の順守を求めるだけである。これは本当に自国の国防を重視する姿勢とは思えない。
 これほど国防分野でも北朝鮮に気を使う文政権が、予算を増額し、軍事力を高めているのはなぜだろうか。
 第一が、在韓米軍への依存を減らす「自主国防」理念だ。韓国の国防関係者は「最大の目的は米国からの戦時作戦統制権の返還だ」という。北朝鮮のミサイルに対抗する能力は米軍から自立するための最大の課題だ。また、北朝鮮軍の動向を的確に把握する情報収集能力を劇的に強化する必要がある。
 第二に、米国に対する政治的な交渉力を持つことだ。それは韓国政府にとって大きな課題である。文政権は、北朝鮮との終戦宣言を進めようとしているが、米国の抵抗にあっている。終戦宣言が行われれば国連軍や在韓米軍の立ち位置に重大な変化をもたらし、在韓米軍の撤退にも至りかねない。しかし、米軍からの自立が進めば、米国に対する交渉力は高まるだろう。
 第三に、中国や日本に対する全方位外交を行う上で、国防力の強化は必須であるということだ。高高度防衛ミサイルシステム(THAAD)の韓国配備に対して、中国は貿易制限、韓国文化の輸出制限や渡航制限などの制裁を受けており、これを緩和する交渉はうまくいっていない。だが、韓国の国防力が強ければ、中国からの一方的な圧力を防ぐことができるだろう。
 終戦宣言をめぐり
 米韓の対立が先鋭化
 10月12日、韓国の当局者はワシントンで米側との協議を終えた後、「我々が考える終戦宣言の構想を詳細に説明し、我々の立場に対する米国の理解が深まったと考える」と述べた。
 さらに1週間後には「(終戦宣言は)北と対話を始めるきっかけとして非常に役立つ」との考えで、韓米間で一致している」「米国は声明採択時にどのような影響があるか検討が必要だとみて、内部で深く検討中」と明らかにした。その説明には、米国も前向きに検討しているとのニュアンスがあった。
 しかし、中央日報によれば、ワシントンの政府関係筋、東アジア太平洋専門家らが伝える米政府の雰囲気は違うという。
 サリバン米大統領補佐官は「我々は各段階の正確な順序や時期、条件についてやや異なる観点を持つ」と述べ、両国間の隔たりを示唆した。
 米専門家の意見はより直截的だ。エバンズ・リビア元米筆頭国務次官補代理は「北朝鮮が真摯(しんし)に非核化手続きを始めれば検討できるというのが米国の立場だ」としている。
 米戦略国際問題研究所・ビクター・チャ韓国部長は「誰も平和には反対しないが、北朝鮮が武器の開発を続ける現実は平和とは距離がある」「終戦を宣言してしまえば、なぜ米軍がまだ韓国に駐留するのかという問題が直ちに浮上することが考えられる」として在韓米軍撤収論が出てくる可能性に言及した。
 しかし、何が何でも終戦宣言をし、北朝鮮との関係改善を図りたいのが文政権である。そのために、米軍に頼らない「自主国防」は魅力的なのだろう。
 李在明氏にとって
 軍備増強は対日用
 ここまで文大統領にとっての自主国防について見てきたが、次の政権が再び革新系の李在明氏になれば、韓国の軍事力の増大は、日本を標的としたものとなり、日本としてもこれにどう対処していくか改めて検討せざるを得ないあろう。
 李在明氏は日本の極右勢力による朝鮮半島侵略を警戒する発言を繰り返している。
 その発言はたとえば下記のようなものだ。「日本は『軍事的敵性国家』であり、極右勢力を警戒する必要がある」「日本とのGSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)には反対する」「日本が軍事大国化した場合、最初の攻撃対象は朝鮮半島である」という。
 これが李在明氏の日本観である。
 最近では10日に行われた記者クラブの討論会で、日米韓軍事同盟について「当然反対する」と明言し、「米国と軍事同盟を結んでいるが、日本を入れるのは慎重に考慮すべき問題」と否定的立場を強調した。
 同氏は「独島(竹島の韓国名)は歴史的に韓国の領土であることは明らかなのに、繰り返し日本が問題提起するのは、いつか大陸に進出する時のトリップワイヤー(仕掛け線)にするためではないか。日本に警戒を緩めてはいけない」と主張する人物である。
 特に軽空母を保有する狙いは対日用ではないかとさえ疑われる。韓国海軍は8日、コンピューターグラフィクスで作成した軽空母戦闘の映像を公開した。その映像には軽空母を中心に編成された空母戦闘団が登場する。空母戦闘団は「海上交通路を保護し北朝鮮の戦略標的を打撃する任務を担う」という。さらに「本当は中国軍の脅威も視野に入れている」(韓国当局者)、「中国軍艦船の動きも目立っているからである」という見方もある。
 しかし、韓国は常に竹島(韓国名“独島”)防衛を意識しており、軽空母をはじめとする海軍力増強は日本を意識した側面があるだろう。日本を敵視する李在明政権になれば、これは日本向けということになりかねない。
 したがって、李在明氏が大統領になった場合の軍備拡張路線は日本が標的となる可能性がある。日本は北朝鮮と韓国の双方と対峙しなければならなくなり、日本の防衛構想についても再点検が必要となるであろう。
 韓国が自主国防の名の下に行う軍備拡張は、米国からの自立を意味する。それは対北朝鮮関係で米国からより自由に行動できるようにすることである。韓国がより自由に北朝鮮支援に乗り出せば、東アジアの平和と安定により大きな脅威をもたらすだろう。さらに李在明政権となれば、日米韓協力は弱まり、韓国が日本に対抗することといった意味合いが強くなろう。
 こうした観点を念頭に日本は防衛力の整備強化を進める必要がある。
 (元駐韓国特命全権大使 武藤正敏)」
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