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2020年2月23日 産経新聞「【日本の議論】アイヌ施策の在り方は? 「帰属意識育む環境を」「欠かせぬ反省と先住権」
整備が進む「ウポポイ」。アイヌ語で「大勢で歌うこと」を意味する=令和元年11月、北海道白老町(国土交通省提供)
昨年5月施行のアイヌ施策推進法などでアイヌ文化の復興拠点と位置づけられ、国立博物館や慰霊施設などで構成する「民族共生象徴空間(ウポポイ)」が4月24日、北海道白老町(しらおいちょう)に開業する。市町村のアイヌ文化継承や産業振興事業への交付金を柱とする同法は、アイヌを初めて先住民族と明記した一方、先住権を認めていない点などで議論がある。北海道大アイヌ・先住民研究センター長の常本照樹氏と参院議員の紙智子氏に聞いた。
常本氏「帰属意識育む環境必要」
--アイヌ施策推進法は、土地や資源などに関する先住民の権利を認めていない
「例えば土地の権利を認めた場合、誰に返すのか。権利を有する主体としてのアイヌを、集団や個人として特定するのは現時点では難しい。しかし、文化を共有する集団としてのアイヌ民族は存在する。国民一般に関わる法律で、アイヌの人々を先住民族と位置付けたことには大きな意義がある」
--同法は地域振興が柱だ
「施策として重要なのは、文化伝承や観光、産業振興などの事業に充てる交付金だ。市町村から事業を受託する団体の構成員は、アイヌが中心になるだろうが、アイヌに限る必要はない。アイヌであるかどうかを問わず一緒に文化を振興することが、民族共生につながる。集団や個人を特定できないという消極的理由だけではない」
--なぜ特定が難しいのか
「例えば、アメリカでは先住民の部族が準主権国家として憲法に位置付けられている。先住民族のみを対象とする特別議席や優先的雇用といった政策であっても憲法に違反しない。合衆国は部族と土地の取得に関する条約を結んだ際などに、部族の構成員リストを入手してきた。先住民とは原則として部族の構成員を意味し、各部族はこのリストに遡(さかのぼ)ることで構成員を特定できるが、日本ではこのリストに相当するものがない」
--道内外の大学が保管するアイヌの人たちの遺骨がウポポイの慰霊施設に集約される
「世代を経て、子孫は何人もいる。国も大学も遺骨をお返ししたいと願っているが、個人に返還する場合も地域の場合も、どなたにお返しすれば最も適切なのかの判断に時間を要してきた。最初に手を挙げた方にお渡しすれば済むという問題ではないのではないか」
--ウポポイはアイヌの観光利用だという批判もある
「アイヌを知らせる手段として観光を捉えるべきだ。民主主義国である以上、アイヌ政策を進めるには国民の理解が必要。アメリカなど人口に占める割合が2%前後と先住民の存在感がある国でさえ、先住民族政策に他の国民から不満が出るが、アイヌは0・03%程度。理解促進に全力を尽くす必要がある」
--文化振興を図る理由は
「国民の多数派は幼い頃から自らの文化に親しみ、自分が何者かという帰属意識を育てることができる。そうした環境がアイヌの場合は損なわれており、その原因をつくった国には解決する責務がある。推進法は、どの文化に即して生きていくかをアイヌ自ら選択できる環境整備のための法律だ」(寺田理恵)
つねもと・てるき 昭和30年、北海道出身。北海道大大学院博士課程修了。法学博士。専門は憲法学。同大大学院教授。平成21年から政府のアイヌ政策推進会議委員、23年から同会議の政策推進作業部会長も務めている。
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紙氏「欠かせぬ反省と先住権」
--ウポポイ活用の在り方は
「アイヌの尊厳を守り、文化の異なる民族の共生を尊重し歴史や文化を学び伝え、振興を図るナショナルセンターという位置づけは大事。アイヌの人たちの意向を生かし趣旨通り運営されるべきだ」
--観光利用に偏る懸念は
「明治政府が同化政策でアイヌの人たちを先住地から追い出し、権利を取り上げた歴史を偽らずに展示し、反省することが大切。差別されてアイヌだと名乗れず、そっとしてほしいという人がいる背景が理解されるようにしないといけない。自然の恵みに感謝し自然と共生するアイヌ民族の考えや風習も伝えるようにすべきだ」
--アイヌ施策推進法の評価は
「私たちは日本の法律で初めてアイヌが先住民族だと書き込んだ点を重要と考え、賛成した。ただ、先住権についてはほとんど盛り込まれず不十分で、発展させていくための議論が必要。法律では『アイヌの人々』と表現したが、アイヌの人たちが求めている言葉は『アイヌ民族』。課題は多い」
--地域振興が施策の柱だ
「アイヌの人たちの意向を反映した自治体の計画に交付金が出されることが大事。アイヌと関係のないところに資金を使ってはならず、相当丁寧にやる必要がある」
--アイヌの認定で課題は
「誰がアイヌで、アイヌでないかの調査は難しさがある。自治体の調査に応じない人もいるので、信頼関係を基にアイヌの人たちに確認するしかないかもしれない」
--土地の権利など先住権を認めると国家の分断を招かないか
「アイヌの『聖地』へのダム建設の差し止めを求めた訴訟の判決で札幌地裁は1997(平成9)年、アイヌ民族を先住民族と認め、文化享有権が(個人を尊重する)憲法13条で保障されていると判断したが、それによって分断されたかといえばそうではない。ビルが建つ札幌の土地などを元に戻すのは大変だが、何ができるかを全く議論しなくていいわけではない。例えば、アイヌの人たちにはサケを儀式だけでなく生業として取りたいとの思いが強い。もっと取れるように調整できるのではないか」
--遺骨の扱いの在り方は
「遺骨を取り戻す運動は、先住民族の権利獲得の中核をなすものだとの指摘があるが、アイヌ政策推進会議で示されたガイドラインでは返還の決定権は遺骨を持っている大学にあり、アイヌ側にないことが問題とされている。また、慰霊施設に移して終わりではなく、アイヌの人たちが求めるように対応すべき。アイヌの風習では亡くなった人は土に戻り、祈りなどはしない。施設で勝手なことをやってはいけない」(村山雅弥)
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かみ・ともこ 昭和30年、北海道出身。北海道女子短大卒。平成13年の参院選比例代表で初当選、現在4期目。共産党常任幹部会委員、党農林・漁民局長。超党派の「アイヌ政策を推進する議員の会」に参加している。
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【記者の目】最大の課題は関心の低さ
アイヌが創作の世界で脚光を浴びている。アイヌの少女が活躍する漫画「ゴールデンカムイ」がヒットし、樺太アイヌを主人公とする川越宗一さんの小説「熱源」が直木賞を受賞した。アイヌへの関心が高まっているのだろうか。
アイヌ文化に触れる機会があるのは北海道の魅力の一つだ。だが、道の調査によると、ウポポイは道外での認知度が極めて低い。
昨秋、アイヌの男性が先住民族の権利だとして道の許可なしにサケを捕獲し、道警の取り調べを受けた。先住権がアイヌ施策推進法に盛り込まれていないことへの批判がある一方、先住権を認めれば優遇策になると反発する意見もある。
推進法の施行を機に先住権をめぐる論争が顕在化しつつある中、法の内容はほとんど知られていない。アイヌ施策を進める上での最大の課題は、国民の関心の低さだろう。(寺田理恵)」
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