🌋11〕─2・②─祖先の「酒に弱い」というDNA複製のエラーが「日本人全体」に広まった。~No.35No.36No.37 

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・  
2020-03-29
🌋11〕─2・①─酒に弱い日本民族日本人。水田稲作の分布と下戸遺伝子の分布がほぼ一致する。~No.35No.36No.37・ 
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 人類の突然変異とは、SFドラマの異種・ミュータントの誕生ではなく、分子生物学における細胞内のDNA複製のエラーによる数十万年かけた新種の誕生である。
 進化してきた人類は突然変異体で、内に破壊的イノベーションと継続的リノベーションを秘めていて、最も重要なのは種の保存、命ある子孫を残す、命を後世につなげる事である。
 子孫を創らない事は、命を後世に残さず絶やす事、つまり絶滅・死滅を意味する。
 命には寿命があり、命は永遠ではなく、命とは限られた命である。
 祖先あっての今の命である。
 その意味において、数万年前の日本列島に先住民(日本土人)として生きてきた日本民族は、ガラパゴス化した特殊な民族である。それは特集能力持つ、あるいは優秀・有能という意味ではない。
 日本民族は、数千年前の弥生時代古墳時代まで、絶えず移住者を受け入れ乱婚して混血を重ね雑種としてDNA複製のエラーを引き起こし遺伝子を書き換え新しい命・新しい遺伝子を生み出していた。
 命・遺伝子の繋がった祖先を人神(氏神・祖先神)として崇拝する日本神道は、道理にかなった自然宗教民族宗教である。
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 2024年11月8日6:50 YAHOO!JAPANニュース 現代ビジネス「だって、日本人だから…祖先の「酒に弱い」という突然変異が「日本人全体」に広まった、細胞核の中の「驚愕の生命ドラマ」
 美しい二重らせん構造に隠された「生命最大の謎」を解く!
 DNAは、生物や一部のウイルス(DNAウイルス)に特有の、いわゆる生物の〈設計図〉の一つといわれています。DNAの情報は「遺伝子」とよばれ、その情報によって生命の維持に必須なタンパク質やRNAが作られます。それゆえに、DNAは「遺伝子の本体である」と言われます。
 【画像】じつは、地球の生物にとって「DNA複製のエラーは欠かせない」ものだった
 しかし、ほんとうに生物の設計図という役割しか担っていないのでしょうか。そもそもDNAは、いったいどのようにしてこの地球上に誕生したのでしょうか。
 世代をつなぐための最重要物質でありながら、細胞の内外でダイナミックなふるまいを見せるDNA。その本質を探究する極上の生命科学ミステリー『DNAとはなんだろう』から、DNAの見方が一変するトピックをご紹介しましょう。
 *本記事は、講談社ブルーバックス『DNAとはなんだろう 「ほぼ正確」に遺伝情報をコピーする巧妙なからくり』から、内容を再構成・再編集してお届けします。
 たった1つの塩基の置換で起こること
 ALDH2遺伝子のSNP
 世の中には酒に強い人と弱い人がいて、日本人はどちらかというと酒に弱いほうだ、とはよく耳にする話である。
 「酒に弱い」ということを科学的にいうと、「アルコールを分解し、酢酸に変える能力が低い」ということだ。その能力を遂行するのは、肝細胞などに存在するアルコール脱水素酵素と、アセトアルデヒド脱水素酵素である。
 前者がアルコール(エタノール)をアセトアルデヒドに分解し、後者がアセトアルデヒドを酢酸に分解する。アセトアルデヒド脱水素酵素には多くの種類があり、そのうち「ALDH2」という酵素が、肝臓でのアルコール代謝に最も重要である。
 この酵素の遺伝子も他の遺伝子と同様、両親から引き継ぐものなので、僕たちの細胞には当然、2つあるはずだが、日本人の半数弱は、この酵素のうち1つが「変異型」になっていて、酵素としての活性がない。
 だから、酒にあまり強くないのである。これに対して西洋人やアフリカ人などは、ほぼ全員が2つの酵素ともに「正常型」であるため、酒に強い人間ばかりである。
 この、ALDH2遺伝子の正常型と変異型の差は、たった1つの塩基の違いによる。正確にいうと、この遺伝子のある場所の塩基GがAに置換したことにより、該当するアミノ酸グルタミン酸からリシンに変化しているのである(図「ALDH2遺伝子のSNP」)。
 「突然変異」から「遺伝的多様性」へ
 かつて世界の誰かのDNAに最初に起こったときは、たしかに「突然変異」だっただろう。だが、今は違う。
 現在ではすでに、かつて「突然変異」だったこの塩基の置換が、日本人という集団全体に広まっている。こうなると、単に「変異」として片づけられるものではなくなり、むしろ遺伝的な多様性を意味する「多型」と表現すべきものになってしまっているのである。
 このような、ある1つの塩基が別の塩基になっている割合が集団の1パーセント以上ある場合、「変異」とは見なさず、「多型」と見なすことになっている。ALDH2のような例は、1つの塩基が人によってはAだったりGだったりするという意味で、1個の塩基の多型、すなわち「一塩基多型(スニップ・SNP:single nucleotide polymorphism)」とよばれる。
 「個人差」を生む要因
 ヒトゲノムにおける個人差のうち、スニップは半分だけだ。では、「残りの半分」はどうなっているのか illustration by gettyimages
 スニップは、かつてある個体の生殖細胞で突然変異が起こり、ある塩基が別の塩基に置換したものが徐々に集団内に広まって、ある一定以上の個体がその変異をもつにいたったものである。最初は突然変異に起因するわけだから、スニップはALDH2遺伝子以外の場所でも起こりうるということになる。
 ヒトゲノムには、ほかにもたくさんのスニップが存在することが知られており、ヒトゲノムの個体間におけるいわゆる「個人差」(ゲノム全体の0.1パーセントを占める)のうち、ほぼ半数がスニップだといわれている。
 たとえば、耳垢が湿っているか乾いているかにも、ある遺伝子に存在するスニップが関わっているし、心筋梗塞などのいわゆる「生活習慣病」の原因遺伝子にも、多くのスニップが関わっていることがわかってきている。
 ヒトゲノムは、「ホモ・サピエンス」という種における全遺伝情報である。したがって、全体としては「ホモ・サピエンスのゲノム」であることが保たれているが、DNAの塩基配列という細かい部分を見ていくと、ところどころで変化を起こしていて、それが「個人差」というものを生んでいる。
 そしてその「個人差」とは、何十万年と続くホモ・サピエンスの歴史のなかで、突然変異がゆっくりと、着実に、そして多くの場合ランダムに起こってきたその結果である、ということができる。
 一方において、ゲノムに生じる変化はスニップだけに限らない。先述のとおり、スニップというのはヒトゲノムにおける個人差のうち「半分」だけだ。では、「残りの半分」はどうなっているのか。
 その残りの半分の部分には、とらえ方によっては、「これこそDNAの本質なんちゃうか」と思えてしまうほど、興味深い変化が生じている。その変化とは、塩基配列の「繰り返しの多型」とよばれるものである。
 生物と「繰り返し」の切っても切れない関係
 「同じことを何回も繰り返す」という事象には、どこか僕たち人間の関心を惹きつける要素が含まれているらしい。
 そうした繰り返しは、たとえばチャールズ・チャップリン(1889~1977年)の映画『モダン・タイムス』で表現されたベルトコンベア労働者のようにコメディーや皮肉の対象になってきたし、少しずつ楽器が加わりながら同じモチーフが何度も繰り返されるモーリス・ラヴェル(1875~1937年)作曲のバレエ音楽ボレロ』のように、芸術の対象にもなってきた。
 そして、「繰り返し」という現象は、僕たち生物にとっても非常に重要なものとなっている。「生殖の繰り返し」によって生物は何十億年も生命をつなぎ、「細胞分裂の繰り返し」が僕たちのこの体をつくっているわけだから、それは当然である。
 ウイルスもまた、細胞に感染して爆発的に増えるということを連綿と繰り返してきたからこそ、多様なウイルスの世界を構築することができたといえる。
 DNAの世界にもまた、「繰り返し」が存在する。複製のことではない。それは、タンパク質の情報をコードしている「遺伝子」ではなく、むしろ「遺伝子以外の部分」に多く起こる「繰り返し」である。
 「DNAの繰り返し」とは、数個程度の塩基配列が、何回も繰り返して存在していたり、数十塩基もの長さの塩基配列が、これも何回も繰り返して存在していたりするものを指している。こうした繰り返し配列について、掘り下げて見ていこう。
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 DNAとはなんだろう 「ほぼ正確」に遺伝情報をコピーする巧妙なからくり
 果たしてほんとうに〈生物の設計図〉か?
 DNAの見方が変わる、極上の生命科学ミステリー!
 世代をつなぐための最重要物質でありながら、細胞の内外でダイナミックなふるまいを見せるDNA。果たして、生命にとってDNAとはなんなのか?
 武村 政春(東京理科大学教授・巨大ウイルス学・分子生物学)
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 11月8日 YAHOO!JAPANニュース 現代ビジネス「この地球に生を受けた以上、切っても切れない関係にある…じつは、DNA複製のエラーが「欠かせないもの」である理由
 武村 政春東京理科大学教授
 巨大ウイルス学・分子生物学プロフィール
 美しい二重らせん構造に隠された「生命最大の謎」を解く!
 DNAは、生物や一部のウイルス(DNAウイルス)に特有の、いわゆる生物の〈設計図〉の一つといわれています。DNAの情報は「遺伝子」とよばれ、その情報によって生命の維持に必須なタンパク質やRNAが作られます。それゆえに、DNAは「遺伝子の本体である」と言われます。
 しかし、ほんとうに生物の設計図という役割しか担っていないのでしょうか。そもそもDNAは、いったいどのようにしてこの地球上に誕生したのでしょうか。
 世代をつなぐための最重要物質でありながら、細胞の内外でダイナミックなふるまいを見せるDNA。その本質を探究する極上の生命科学ミステリー『DNAとはなんだろう』から、DNAの見方が一変するトピックをご紹介しましょう。
 【書影】DNAとはなんだろう
 *本記事は、講談社ブルーバックス『DNAとはなんだろう 「ほぼ正確」に遺伝情報をコピーする巧妙なからくり』から、内容を再構成・再編集してお届けします。
 生物と「繰り返し」の切っても切れない関係
 前回は、ヒトゲノムにおける個人差のうち「半分」を占めるスニップ(1個の塩基の多型、すなわち「一塩基多型」)について解説し、「残りの半分」に見られる、塩基配列の「繰り返しの多型」に触れた。今回は、この繰り返しの多型について、もっと深く見ていこう。
 「DNAの繰り返し」は、タンパク質の情報をコードしている「遺伝子」ではなく、むしろ「遺伝子以外の部分」に多く起こる。
 数個程度の塩基配列が、何回も繰り返して存在していたり、数十塩基もの長さの塩基配列が、これも何回も繰り返して存在していたりするものを指している。こうした繰り返し配列のことを「縦列反復配列」といい、前者を「STR(short tandem repeat)」、後者を「VNTR(variable number of tandem repeat)」とよぶ。
 DNA指紋
 VNTRは「VNTR多型」とよばれ、個人によってその部分の繰り返しの数(「塩基の数」ではなく、「繰り返しの数」)がバラバラで、きわめて多様性に富むという性質がある。そこで、いわゆる「DNA指紋」として、DNA鑑定に用いられることがある(図「DNA指紋(VNTR多型)」)。
 【図】DNA指紋(VNTR多型)DNA指紋(VNTR多型)
 DNA指紋は、遺伝子以外の部分に存在する繰り返し配列だが、遺伝子のなかにもこうした「繰り返し配列」が存在する場合がある。
 たとえばそれは、アミノ酸を指定するコドンのうち、ある特定のものが何回も繰り返し出てくることによって、つくられるアミノ酸配列の該当部分に、同じアミノ酸が鎖のようにずらっと並ぶようなものだ。
 「繰り返しの数」の多型
 そのようなコドン(アミノ酸)の繰り返しのなかで最も有名なものの一つは、「ハンチントン病」という神経変性疾患の原因遺伝子である「ハンチンチン遺伝子」に見られる繰り返しだろう。
 ハンチンチン遺伝子の一部には、アミノ酸の一つである「グルタミン」をコードする「CAG」というコドンが、6~35個も繰り返して存在している。この繰り返し部分を「CAGリピート」とよぶ。CAGリピートの数によって、つくられるハンチンチンタンパク質には6~35個のグルタミンの鎖(ポリグルタミン)のバリエーションができる。
 ところが、このCAGリピートの数がなんらかの理由でさらに伸びてしまい、36個以上になってしまうと、作用機序は不明だが神経細胞に異常が生じ、ハンチントン病を発症するのである(図「ハンチントン病の原因遺伝子=ハンチンチン遺伝子」)。
 【図】繰り返しの数が多いハンチントン遺伝子ハンチントン病の原因遺伝子=ハンチンチン遺伝子
 では、こうした繰り返しの数はなぜ、どのようなメカニズムで伸びてしまうのだろう。
複製スリップ
 前回の記事で、DNAポリメラーゼには〈いい加減〉なところがあるという話をしたが、ここでもう一つ、重要な〈いい加減さ〉が登場する。
 DNAポリメラーゼは、まるで「ジャックと豆の木」のジャックがつねに豆の木の幹にしがみついていなければならないといったように、「つねに鋳型となるDNAに張りついて複製をおこなっている」わけではない、という考えがある。
 DNAポリメラーゼは、常時がっちりと鋳型にしがみついているのではなく、じつはかなりゆらいでいて、スーパーマリオがときどきぴょんぴょんと飛び上がるがごとく、鋳型からときに離れたり、ふたたび取りついたりといったことを、目にも止まらぬ速さで繰り返しながらDNAの複製をおこなっているのではないかというものである。
 その結果、鋳型が短い塩基配列の繰り返しでできているような場合、すなわちCAGリピートの場合、鋳型からヒョッと離れて、ふたたびフイッと取りつく際に、誤って一つ手前のCAGにDNAポリメラーゼがくっついてしまうことによって、3塩基分が多く合成されてしまう。
 このような現象を「複製スリップ」という。
 要するに、まるでDNAポリメラーゼが雪道で足を滑らせる歩行者のように、「おおっと!」とばかりに滑っているかのように見えるというわけである(図「複製スリップ」)。
 【図】複製スリップ複製スリップ。DNAポリメラーゼによる複製スリップは、DNAを短くも長くもする
 時折起こるエラーは進化の源
 先ほども述べたように、36個以上のCAGリピートをもつ異常なもののみならず、正常なハンチンチン遺伝子の CAGリピートにも6~35個という個人差が存在する。
 このことは、特に生殖細胞系列でのDNA複製において、そのような複製スリップがつねに起こっていることに起因していると考えられる。それがある一線を越えて、CAGリピートの数が正常な範囲を上回って増えると、ポリグルタミン鎖が長くなってしまうことで異常が生じる。
 このような複製スリップは、DNAポリメラーゼの〈いい加減〉なしくみに鑑(かんがみ)て、ほかの繰り返し配列でも十分に起こりうるともいえる。さらに、滑って「伸びる」だけでなく、逆に滑って「縮む」こともありうる(図「複製スリップ」)。
 ヒトゲノムに存在するこうした短い塩基配列の繰り返しは、複製スリップと、それにともなう伸長や短縮というリスクに、つねにさらされているということになる。それが連綿と続く生殖の歴史のなかで、繰り返しの数の多様性をもたらし、個人差や病気発症の有無へとつながっている。
 そして時には、DNA鑑定に代表される犯罪捜査にも活かされている。
 DNAの変化は当然、僕たちヒトの専売特許ではない。こうした変化は、すべての生物、そしてウイルスにおいても起こってきたであろう変化であり、今も存在する生物多様性の要因ともなっているはずだ。
 DNAの底知れない深さ
 複製エラーや複製スリップという、本来は正確に複製されるべきポイントでまれに起こるDNAポリメラーゼの異常な行動は、その時々を見れば、まさに文字どおりの「異常」であるかのように見える。
 しかし、長期的な視点でとらえ直すと、「ほぼ正確」に遺伝情報を複製しつつも、時折エラーを起こすという現象が存在しているがゆえに、長い時間をかけて生物が進化することができたともいえる。
 それを、僕たち人間はDNA鑑定のように自分たちの社会秩序を維持するために用いているわけだから、DNAとは底知れない深さをもつ物質である。
 DNAは、「塩基配列を正確に複製できる」というメリットと、「その過程でエラーを起こす」可能性をDNAポリメラーゼやDNAの構造上、どうしても持ち合わせてしまうというデメリット(あるいはリスク)を、どちらも共存させることに成功してきた。
 そして、変わりやすい地球環境に適合した生物の形をも、長い時間をかけて決めることに成功してきたのである。
 【イラスト】DNAにはメリットも、デメリットもあるが、それが長い時間のなかで、変わりやすい地球環境に適合した生物の形をも決めることに成功してきたDNAには、メリットもデメリットもあるが、それが長い時間のなかで、変わりやすい地球環境に適応した生物の形と性質をも決めることに成功してきた
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 地球環境に適応した生物の形と性質を作ってきたDNA。次回はDNAと進化についてのトピックをお届けします。
 NEXT 〉〉〉DNAの塩基配列が「変化する」のには深いワケがあった
 こちらの続きは、11月11日(月)の公開予定です。
 DNAとはなんだろう 「ほぼ正確」に遺伝情報をコピーする巧妙なからくり
 【書影】DNAとはなんだろう
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 果たしてほんとうに〈生物の設計図〉か?
 DNAの見方が変わる、極上の生命科学ミステリー!
 世代をつなぐための最重要物質でありながら、細胞の内外でダイナミックなふるまいを見せるDNA。果たして、生命にとってDNAとはなんなのか?
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 2024年10月20日 YAHOO!JAPANニュース 現代ビジネス「じつは「突然、異形の生物が生まれる」ことではない…誰にでも起こっている「突然変異」という現象の「衝撃の実像」
 武村 政春東京理科大学教授
 巨大ウイルス学・分子生物学プロフィール
 美しい二重らせん構造に隠された「生命最大の謎」を解く!
 DNAは、生物や一部のウイルス(DNAウイルス)に特有の、いわゆる生物の〈設計図〉の一つといわれています。DNAの情報は「遺伝子」とよばれ、その情報によって生命の維持に必須なタンパク質やRNAが作られます。それゆえに、DNAは「遺伝子の本体である」と言われます。
 しかし、ほんとうに生物の設計図という役割しか担っていないのでしょうか。そもそもDNAは、いったいどのようにしてこの地球上に誕生したのでしょうか。
 世代をつなぐための最重要物質でありながら、細胞の内外でダイナミックなふるまいを見せるDNA。その本質を探究する極上の生命科学ミステリー『DNAとはなんだろう』から、DNAの見方が一変するトピックをご紹介しましょう。
 【書影】DNAとはなんだろう
 *本記事は、講談社ブルーバックス『DNAとはなんだろう 「ほぼ正確」に遺伝情報をコピーする巧妙なからくり』から、内容を再構成・再編集してお届けします。
 老化の原因は、細胞の「分裂のたびに起こる」わずかな変化
 老化にもさまざまな原因があるが、最も大きな要因の一つをあえてここに挙げるとするなら、生物の細胞は「分裂するたびに少しずつ変化するから」ということがある。
 分子レベルの話をすれば、細胞が分裂する前に必ずおこなわれる「DNAの複製」では、わずかではあるものの「複製エラー」が生じるため、DNAは複製するたびに、時々刻々と少しずつ変化する。
 DNAの複製は「遺伝子」の複製を含むので、遺伝子は、複製されるたびに複製エラーによって少しずつ変化する可能性をはらんでいるということである。
 そのエラーが「固定」されてしまうと、どうなるか? 「突然変異」とよばれる、塩基配列の不可逆的な変化となるのである。
 禿げるのは、「DNAが悪い」のだ
 たとえば僕などは、まあ情けないことに、30代で毛(もちろん髪の毛のことである)が薄くなりはじめ、40代の後半には剃り上げて海坊主のような髪型にしたのだが、頭が禿げるという現象には、その人の人生における突然変異の蓄積という側面と、もって生まれた遺伝という側面がある。
 それでもやはり、僕の遠い昔の祖先から現代にいたるまでの、連綿とした生殖細胞の系列のなかで突然変異が起こり、禿げるようになってしまった可能性を考えると悲しい。いずれにしても、「DNAが悪い」のである。
 【写真】禿げると言う現象の、2つの側面「頭が禿げる」と言う現象には、突然変異の蓄積という側面と、もって生まれた遺伝という側面がある photo by gettyimages
 DNAは、それが遺伝子であろうが遺伝子でなかろうがーーすなわち、コード領域であろうがそうでなかろうが、複製するたびに、ほんのわずかずつではあっても「変化する」シロモノである。むしろ、「変化してこそのDNA」であるともいえるのであって、往年の長嶋茂雄のマネをして「わがDNAは永久に不滅です!」などといっても、まったく説得力はない。
 最初に発見されたDNAポリメラーゼ
 先の記事でも触れたように、僕は大学院生時代、DNAポリメラーゼの研究をしていた。僕が研究していたのは、真核生物のDNAポリメラーゼのうち、「DNAポリメラーゼα(アルファ)」という酵素だった。
 DNAポリメラーゼαは、1960年にフレデリック・ボラム(1927〜2023年)という研究者によって真核生物で最初に発見されたDNAポリメラーゼであったがために、ギリシャ文字の最初の文字である「α」がその名につけられた。
 その発見以来、「仔牛胸腺(きょうせん)」というウシの臓器から精製することがDNAポリメラーゼαのオーソドックスな精製方法となり、僕もその例にもれず、食肉処理場からもらってきた仔牛胸腺(胸腺は当時は売り物にならず、捨てられていたから譲ってもらえたのだった。今はどうかわからない)を出発材料としてこの酵素を精製し、研究に使っていた。
 ちなみに、世界で最初に発見されたDNAポリメラーゼは大腸菌のもので、発見者であるアーサー・コーンバーグ(1918〜2007年)はノーベル賞に輝いた。これに対して僕は、頭が輝いているだけの単なるオッサンになり果てた。
 消しゴムがついていない鉛筆
 DNAポリメラーゼαには、ある面白い特徴がある。
 真核生物のDNA複製をメインにおこなうのは、「α」ではなく「DNAポリメラーゼδ(デルタ)」や「DNAポリメラーゼε(エプシロン)」という酵素で、これらの酵素には修復機能が備わっている。修復機能とは、3′→5′エキソヌクレアーゼという酵素活性で、僕はよく、鉛筆のお尻についた消しゴムに喩えている(このことについては、回をあらためてご説明しよう)。
 ところが、DNAポリメラーゼαには、修復機能が備わっていない(図「DNAポリメラーゼとエキソヌクレアーゼ」)。
 つまりこの酵素は、書いたら書きっぱなしの〈消しゴムがついていない鉛筆〉なのである。ただ、DNAポリメラーゼαに最初から修復機能がなかったわけではなく、当初は備わっていたと窺(うかが)わせる分子の痕跡はある。正確にいえば「進化の過程で修復機能を失った」ということに該当するらしい。
 【図】DNAポリメラーゼとエキソヌクレアーゼDNAポリメラーゼDNAポリメラーゼとエキソヌクレアーゼ。DNAポリメラーゼδ、εにはエキソヌクレアーゼ活性があるが、DNAポリメラーゼαにはない illustration by haruo nagami
 修復機能がないことが、「なんでオモロイ特徴なんや」などと思わないでいただきたい。
 修復機能が失われると、いったいどういうことになるのか。ここを掘り下げていくことが、「突然変異はどう起こるのか」という問題の根幹ともいえる問いだからである。
 「突然変異」はDNAに生じる
 「突然変異」という言葉が使われる際、ときとして「ある生物Aが突然変異を起こして生物Bになった」というような言い方が散見される。かつてのゴジラ映画も、そんな文脈でこの怪獣の誕生の経緯が説明されてはいなかっただろうか。
 これはおそらく、「突然」という言葉が含まれているがゆえに、その生物になんらかの変異が起こって、異なる形をした生物が“いきなり生まれる”のが突然変異だ、と誤解されているからだろう。
 それと関連して、今後の高校生物の教科書では、突然変異という言葉から「突然」の語句が消され、単に「変異」という言葉に置き換えられていくことになっている。その理由には2つあり、第一に、先述の誤解を生みやすい表現を改めること、第二に、対応する英語「mutation」に合わせることである。
 とはいえ、本稿は教科書ではないから、馴染みの深い「突然変異」という表現を、引き続き使っていくことにしよう。
 そもそも「突然変異」とは、いったい何を指す言葉なのか。
 先ほどの「ある生物Aが突然変異を起こして生物Bになった」という現象が現実には起こりそうにないのは、突然変異という言葉が「生物の形や大きさがいきなり変わってしまう」変化に対する言葉ではないからである。
 突然変異とは「DNAに生じるもの」であり、DNAに生じるということは、別の言い方をすると「DNAの塩基配列が変わる」ということである。しかも、単に「変わる」だけではなく、「半永久的に変わる」現象であり、もはや元に戻らないことを意味している。
 それが、「突然変異」なのである。
 【イラスト】DNAに生じた半永久的な変化を「突然変異」とい言うDNAに生じた半永久的な変化を「突然変異」という photo by gettyimages
 この突然変異、すなわち「塩基配列の変化」には、さまざまなタイプがあるが、最もひんぱんに起こると考えられている突然変異は、「置換」とよばれるタイプである。
 「最もひんぱん」とはいうが、いったいどれくらいの頻度で起こるのか。そして、どうして起こるのだろうか。そして、DNAポリミラーゼの修復機能と、どう関係しているのか。少し詳しく見ていきたい。
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 次回は、突然変異=塩基配列の変化について、さらに詳しい解説をお送りします。
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 果たしてほんとうに〈生物の設計図〉か?
 DNAの見方が変わる、極上の生命科学ミステリー!
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