👪41〕─1─リベラルの社会正義が大衆を狂気に暴走させ社会に地獄をもたらす。~No.151No.152No.153 

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 日本のリベラル左派は、欧米のリベラルとは違う。
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 2023年8月1日 MicrosoftStartニュース マネーポストWEB「【世界はなぜ地獄になるのか】誹謗中傷が渦巻く「大衆の狂気」の時代 平穏な人生を送るにはどうすればよいか
 大衆の狂気が「キャンセルカルチャー」を生み出す(イメージ。Getty Images)
 © マネーポストWEB 提供
 著名人の不倫騒動や、政治家の不用意な発言があるたびに、SNSでは誹謗中傷が噴出する。それは著名人に限った話ではなく、ふつうのひとのちょっとした発言が、大炎上することもある。いったい、今の世の中はどうなっているのか。平穏に人生を過ごす術はないのか──。新刊を上梓した作家・橘玲氏は、「リベラル化の進展で、社会はますます複雑になっていっている」と説明する。その真意について、橘氏に聞いた。
【写真】印象的な「キャンセルカルチャー」の事例。ミュージシャン小山田圭吾氏に対するバッシング
――「社会が複雑になっている」とは、どういう意味でしょうか。
 橘:私は“リベラル”を「自分らしく生きたい」という価値観と定義しています。そんなのは当たり前だと思うでしょうが、人類史の大半において「自由に生きる」ことなど想像すらできず、生まれたときに身分や職業、結婚相手までが決まっているのがふつうでした。
 いま世界は「リベラル化」の巨大な潮流のなかにあり、「誰もが自分らしく生きられる」社会が目指されています。差別的な制度を廃止し、人権を保障し、多くの不幸や理不尽な出来事をなくすのはもちろん素晴らしいことですが、それによってすべての社会問題が解決できるわけではなく、逆に新たな問題を生み出してもいる。
 これまで政治家は、地域や組織のボスと話をつけて利害を調整してきました。ところがリベラル化によってイエ、教会・寺社、組合などの共同体が解体すると、一人ひとりの複雑な利害が前面に出てきます。これが日本だけでなく世界的に、民主政(デモクラシー)が機能しなくなってきた理由でしょう。
 身分や性別、人種、国籍などにかかわらず能力だけで個人を評価するメリトクラシーはリベラルな社会の大原則ですが、知識社会化が進むと学歴の低いひとたちが社会から排除され経済格差が拡大していきます。
 男と女の生物学的な性差によって、恋愛ではまず女が男を選択し、次に選ばれた一部の男(モテ)が女を選択しますが、自由恋愛が当たり前になると、女性の「選り好み」がきびしくなって、性愛市場から脱落してしまう若い男性が増えてきます。日本ではこれは「モテ/非モテ」問題といわれ、英語圏では「インセル(非自発的禁欲主義者)」を自称しています。
 ここで重要なのは、能力格差も、モテ格差も、社会がよりリベラルになり、人種や国籍、身分や性的指向にかかわらず、すべての個人を同じ基準で一律に評価することで顕在化してきたことです。リベラル化が引き起きこした問題を、リベラルな政策によって解決することはできませんが、「リベラル」を自称するひとたちはこのことをまったく理解していないようです。
 同様に、リベラル化が進んでアイデンティティが多様化すれば、ある人にとっての正義が、別の誰かの正義と衝突することがしばしば起きます。「自分らしさ(アイデンティティ)」に優劣はつけられませんから、この対立は原理的に解決不可能です。このようにして、「社会正義(ソーシャルジャスティス)」の旗の下に、自分たちの価値観に反する言動をした者を糾弾する運動が世界的に目立つようになりました。これが「キャンセルカルチャー」です。
――公職に就く者に対して、その言動が倫理・道徳に反しているという理由で辞職(キャンセル)を求める運動のことですね。
 橘:日本でキャンセルカルチャーの到来を告げたイベントが東京五輪で、エンブレムのデザインの盗用疑惑、森喜朗大会組織委員長の女性蔑視発言、演出統括者が女性タレントを「ブタ」にたとえたり、演出を担当したお笑いタレントが過去にホロコーストをコントのネタにしていたとして辞任・解任されるなど、多くのキャンセル騒動が起きました。
 そのなかでもミュージシャン小山田圭吾氏に対する、過去のいじめを語った雑誌インタビューを理由としたバッシングは、音楽家としての「社会的存在」を抹消するかのような大規模な「炎上」を引き起こしました。この事例については本書で検証していますが、小山田氏にまったく非がないとはいえないものの、あそこまでの批判を浴びる理由があったかは疑問です。
 芸能人の不倫報道なども同じですが、大衆は自分たちの正義感覚と照らし合わせて、「不道徳」と感じた者を直感的に攻撃します。そもそも人間の脳は、不道徳な者を罰すると報酬系が刺激されて快感を得るようにプログラムされている。他者を糾弾することは、社会的・経済的な地位に関係なく誰でもできるし、SNSはそれを匿名かつローコストで行なうことを可能にしました。「正義」が最大の娯楽であるからこそ、SNSで「不道徳エンタテインメント」が盛り上がるわけです。
 レフトとリベラルが対立するトランスジェンダー問題
――それが世界中で起こっている、ということでしょうか。
 橘:芸能人の不倫から回転寿司店で醤油差しをなめる行為、あるいはビッグモーターの不正事件まで、いまの日本におけるキャンセル事例はほとんどが「不道徳エンタテインメント」で説明できるでしょうが、狭義の意味でのキャンセルカルチャーは、レフト(左派)によるリベラルへのキャンセルという新しい現象を指します。さらには、レフト同士の衝突まで起きている。その象徴がトランスジェンダー問題です。
 トランス女性が女性用トイレを使用できるのかという問題は、日本では「保守派」と「リベラル」の対立として報じられていますが、こうした枠組みではなにが起きているかを正しく理解できません。トランスジェンダー問題の特徴は、一部の(ラディカルな)フェミニストとトランス活動家が対立していることで、保守派はこの混乱を利用してトランスジェンダーに対する不安を煽っています。
 『ハリー・ポッター』シリーズのJ.K.ローリングはリベラルなフェミニストですが、性自認だけでトランス女性が公衆トイレや更衣室を利用することに異議を述べたことで、「TERF(トランス排除的ラディカルフェミニスト)」のレッテルを貼られてキャンセルされました。トランスジェンダーの権利を擁護するのがリベラルで、それを認めないのは保守派・右翼だという単純な理解では、ローリングがキャンセルされるに至る経緯を説明できないでしょう(この背景はかなり複雑なので本を読んでください)。
 問題は、「ファスト社会」のメディアが、複雑な社会現象を複雑なものとして説明することができないからでしょう。ひとびとが求めるのは、直感的に理解できる善悪二元論のエンタテインメントなのです。
──そんな複雑な社会を生き延びるには、どうすればよいのでしょうか。
 橘:イギリスの政治・社会評論家ダグラス・マレーは、著書『大衆の狂気』(東洋経済新報社)のなかで「最近では、誰もがそう感じているように、文化全体に地雷がしかけられている」と述べています。マレーは「ゲイ」「女性」「人種」「トランスジェンダー」を現代社会の主要な“地雷原”としています。
 ローリングは世界でもっとも有名な作家ですが、それでもキャンセル騒動で「殺人予告」まで受け、その評判は大きく傷つきました。一般人が「地雷」を踏めば、人生に回復不能な大きな損害を被ってしまいます。
 社会正義は重要でしょうが、一方では、世の中には(右にも左にも)「極端な人」が一定数いて、SNSはそれを「大衆の狂気」に増幅してしまいます。だとすれば、もっとも重要なのは、そういう「極端な人」と接触しないようにすることでしょう。
 そのためには最低限、「個人を批判しない」ことが大切です。なぜなら「極端な人」は、自分が批判されたと思うと、常軌を逸して攻撃的になるから。自分が「被害者・犠牲者」で、なおかつ「正義」を体現していると信じている相手には、どのような説得も効果がありません。「批判されたら反論しなければならない」と思っているひともいるようですが、これは最悪の対応で、無視するかブロックするしかありません。
 キャンセルカルチャーへのもっとも現実的な対処法は「地雷原に近づくな」の一言に尽きます。新刊『世界はなぜ地獄になるのか』では、社会のリベラル化が進むと、ますます生きづらくなるパラドクスを説明しています。大衆の狂気に巻き込まれず、平穏な人生を歩む一助になれば幸いです。
 【プロフィール】
 橘玲(たちばな・あきら)/1959年生まれ。作家。国際金融小説『マネーロンダリング』『タックスヘイヴン』などのほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など金融・人生設計に関する著作も多数。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。リベラル化する社会をテーマとした評論に『上級国民/下級国民』『無理ゲー社会』がある。最新刊は『世界はなぜ地獄になるのか』(小学館新書)。
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