👪47〕48〕─1─年を取るほど「不幸」になる人の思考 『人はどう老いるのか』。~No.169No.170No.171No.172No.173No.174 

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 2023年12月17日 MicrosoftStartニュース 現代ビジネス「50代は要注意…!年を取るほど「不幸」になる人の思考 『人はどう老いるのか』
 久坂部 羊
 老いればさまざまな面で、肉体的および機能的な劣化が進みます。目が見えにくくなり、耳が遠くなり、もの忘れがひどくなり、人の名前が出てこなくなり、指示代名詞ばかり口にするようになり、動きがノロくなって、鈍くさくなり、力がなくなり、ヨタヨタするようになります。
 世の中にはそれを肯定する言説や情報があふれていますが、果たしてそのような絵空事で安心していてよいのでしょうか。
 医師として多くの高齢者に接してきた著者が、上手に楽に老いている人、下手に苦しく老いている人を見てきた経験から、初体験の「老い」を失敗しない方法について語ります。
 *本記事は、久坂部羊『人はどう老いるのか』(講談社現代新書)を抜粋、編集したものです。
 優秀な人ほど苦しむ老い
 老人デイケアのクリニックに勤務していたとき、私は先にも書いた通り、利用者さんのテーブルをまわって順番に、「調子はどうですか」と聞いていました。「大丈夫です」と言う人もいましたが、大半は何らかの症状を訴えます。
 「腰が痛いんです。三日ほど前から痛くてたまりません」「なんや息をするのがしんどくて」「足がむくんで抜けるようにだるいんです」「目ヤニが出て、耳からも耳だれが出て」「便が硬くて、力むと脳の血管が破れそうで」「オシッコのにおいがきつくて」「夜になかなか寝つけんで、寝たと思うたらお便所に行きとうなって」
 四十人ほどの高齢者の苦しみを聞いてまわるのは、かなりのハードワークでした。なにしろ簡単には治らないことばかりなのですから。しかし、これらの訴えは年を取ればある程度予測可能なものばかりです。頭でわかっていても、自分のこととしては受け入れがたいのでしょう。
 © 現代ビジネス
 人はだれでも、年を取れば足が弱るし、手がしびれて、息切れがして、身体が動きにくくなり、眠れなくなったり、尿が出にくくなるのに夜はトイレが近くなったり、お腹が張るのにガスは出ず、出なくていい痰や目ヤニやよだれが出て、膝の痛みに腰の痛み、嚥下機能、消化機能、代謝機能も落ちたりして、身体が弱るものです。そうなるのが自然なのに、それを受け入れるのは簡単ではありません。
 老いるということは、失うことだとも言われます。体力を失い、能力を失い、美貌を失い、余裕を失い、仕事を失い、出番を失い、地位と役割を失い、居場所を失い、楽しみを失い、生きている意味を失う。
 そんな過酷な老いを受け入れ、落ち着いた気持ちですごすためには、相当な心の準備が必要です。
 老いに直面する前にしておくべき「心の準備」
若いときから優秀だった人は、人生で得たものが多い分、失うつらさにも耐えなければなりません。仕事で高い地位についていた人は、リタイアしてふつうの人になることに抵抗があるでしょうし、頭がいいと言われていた人は、記憶力や計算力が衰え、言いまちがい、勘ちがいなどを指摘されると腹が立ち、逆にショックを受けたり、落ち込んだりします。
 もともとさほど優秀でない人は、リタイアしても同じですし、記憶力の衰えなどもたいして気にはなりません。
 健康に気をつけて、どこも悪いところがなかった人も、老化現象による不具合には耐えるのがたいへんです。若いときから具合の悪い人のほうが、慣れている分、年を取ればこんなものだと受け入れやすいでしょう。
 私より八歳年長の知人は、高学歴で社会的地位も高い職業に就いていましたが、老いを受け入れることができずに苦しんでいます。七十六歳にもなれば、衰えて当然だと思うのですが、なんとか若いときの状態を維持しようと頑張っています。これまで大きな挫折の経験がなく、逆に努力によって困難を克服してきた成功体験があるので、老いにも努力で立ち向かおうとするのです。当然、心は安らかではありません。「いい加減にあきらめたら」と奥さんに言われても、頑としてあきらめません。あきらめたら終わりだ、敗北主義だと頑張るのです。
 老いの不如意も衰えも、受け入れて付き合っていくしかない。そう思えたら少しは楽になるのにと思います。あきらめの効用です。あきらめるというのは、もともと「明らむ」、すなわち「つまびらかにする」とか「明らかにする」という意味で、仏教では「諦」という文字は「真理・道理」の意味があるそうです。あきらめきれないのは、状況を明らかにしていない、真理・道理に到達していないということで、だからイライラ、モヤモヤするのです。
 「健康管理に励む人」が陥りやすい罠
 健康維持や老化予防の努力にも思わぬ罠が潜んでいます。
 毎日、しっかり運動をして、酒、煙草もやらず、夜更かしもせず、栄養のバランスを考えて、刺激物を避け、肥満にも気をつけて、疲れも溜めず、健康診断や人間ドックも欠かさず、ストレスも溜めず、細心の注意で健康に気をつけていても、老化現象は起こります。がんや脳梗塞パーキンソン病、あるいは認知症も、なるときはなります。そのとき冷静に受け止められるでしょうか。あんなに努力したのにと、よけいな嘆きを抱え込んでしまわないでしょうか。
 もちろん、努力をすればリスクは下がります。しかし、ゼロにはなりません。そのことをしっかり認識しておかないと、努力しない人以上の苦しみに陥る危険があります。
 さらに連載記事<「上手に楽に老いている人」と「下手に苦しく老いている人」の意外な違い>では、症状が軽いのに老いに苦しむ人と、そうでない人の実例を紹介しています。
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 10月18日 MicrosoftStartニュース 現代ビジネス「「上手に楽に老いている人」と「下手に苦しく老いている人」の意外な違い
 『人はどう老いるのか』
 久坂部 羊作家
 老いればさまざまな面で、肉体的および機能的な劣化が進みます。目が見えにくくなり、耳が遠くなり、もの忘れがひどくなり、人の名前が出てこなくなり、指示代名詞ばかり口にするようになり、動きがノロくなって、鈍くさくなり、力がなくなり、ヨタヨタするようになります。 
 世の中にはそれを肯定する言説や情報があふれていますが、果たしてそのような絵空事で安心していてよいのでしょうか。
 医師として多くの高齢者に接してきた著者が、上手に楽に老いている人、下手に苦しく老いている人を見てきた経験から、初体験の「老い」を失敗しない方法について語ります。
*本記事は、久坂部羊『人はどう老いるのか』(講談社現代新書)を抜粋、編集したものです。
 上手に老いる方法
 「人はどう老いるのか」というタイトルから、人間の老いに関するメカニズムや、老化による細胞の変化、筋肉や内臓のタンパク量の減少などについて、医学的な解説を期待されるかもしれませんが、そういうことは他書に委ねます。現在、解明されている老化現象に対する知見は、あまりおもしろくないし、知ったところで上手に老いられるわけではありませんから。
 老いに関する本でよく読まれているのは、老いを止める、あるいは遅くする方法を論じたものでしょう。それも他書に任せます。そういうノウハウや指導、お勧めもいろいろあるようですが、たいていは眉唾もので、気休め、あるいは当たるも八卦当たらぬも八卦の類いがほとんどだからです。
 そもそも老化を遅くする方策(運動、食事、サプリメント、薬剤など)を講じて、若々しさを保ったとしても、その方策のおかげとは言い切れません。その方策を講じてなくても、もともと若々しかった可能性が否定できないからです。
 科学的に効果を証明するためには、ある方策を講じたグループと、講じていないグループを無作為に分けて、大規模で長期間比較しなければなりません(「大規模無作為化比較試験」といいます)。そんな比較試験は事実上、むずかしいでしょう。実施しようとすれば、だれしも方策を講じるグループに入りたいと願いますから。
 ましてや若々しさの指標をどう決めるのか。運動機能なのか、記憶力なのか、神経伝達速度なのか。どれを指標に決めたところで、その成績がよいからといって、楽に老いられるわけではありません。老いにはさまざまな側面があり、人によって受け止め方もちがうからです。老化現象が進んでいても、精神的に満たされた人はいますし、若々しいのに不平不満を抱えている人もたくさんいます。
 上手に楽に老いるには、老いの実例をいろいろ見て、参考にするのがいいでしょう。私自身、その経験が大いに役立っていると感じます。 
 たまたま飛び込んだ高齢者医療
 私はもともと外科医でしたが、三十代のはじめにあるきっかけで外務省に入り、医務官という仕事で、海外の日本大使館に約九年間、勤務しました。赴任したのはサウジアラビアオーストリアパプアニューギニアの三ヵ国です(詳細は前著『人はどう死ぬのか』〈講談社現代新書〉に書いています)。
 外務省をやめて四十二歳で帰国したとき、これだけブランクがあると、外科医としては使い物にならないので、どうしようかと思っていたとき、医局から紹介されたのが、神戸にある老人デイケア(今でいうデイサービス)を併設したクリニックでした。まだ介護保険がはじまる前で、老人デイケア医療保険で行われていました。
 当時、高齢者医療のクリニックで働くのは、現役を引退した医者が多く、患者さんも高齢だが医者も高齢というのが通り相場でした。なにしろ高齢者医療は、“老い”という治らない症状を相手にするので、やる気のある若い医者や、脂ののったベテランはやりたがらないのも当然でした。
 私も最初は意気が上がらないなと思っていました。しかし、実際に勤めはじめると、意外なおもしろさに気づいたのです。
 外来患者さんはさほど多くありませんでしたが、老人デイケアには毎日、四十人の“ナマ年寄り”がやってきます。それまで高齢者といえば、自分の祖父母とか近所の顔見知りがせいぜいで、年寄りはこういうものだろうという漠然とした思い込みがありました。ところがデイケアの利用者さんを見ると、身体の状態から気の持ちよう、悩み、葛藤、欲求、自慢や自尊心、思い込みやこだわりなどが千差万別で、それぞれの人生がにじみ出るようなちがいが感じられたのです。
 クリニックに出勤したら、私は送迎バスの降り口で利用者さんを出迎え、外来患者さんがいないときは二階のデイケアルームに上がって、デイケアのようすを眺めていました。利用者さんと雑談をしたり、相談を受けたりしながら、秘かに観察を続け、その驚くべき“老い”の実態に大いに興味を惹かれました。
 重症度と苦悩の深さが一致しない
 最初に意外だったのは、高齢者の多くがごく当たり前のことで、悩んだり嘆いたりしていることでした。
 腰が痛い、膝が痛い、さっさと歩けない、細かい字が読めない書けない、もの忘れが激しいなど、当時まだ四十代だった私には、老いれば当然のことと思えることばかりでした。それなのに当人は、「なんでこんなことになったのか」「こんなことになるとは思わなかった」と嘆くのです。あたかもまったくの想定外の不幸に見舞われて、苦しんでいるという感じでした。
 それはつまり心の準備が足りなかったということでしょう。「いつまでも元気で若々しく」とか、「最後まで自分らしく」などの無責任なきれい事情報に惑わされていたから、実際の老いであちこちに不具合が起こると、「なんでこんなことに」「こんなことになるとは」と、落ち込んでいたのです。
 その一方で、「年を取ったらこんなもんですわ」と、さまざまな老化による不具合を受け入れている人もいました。ある男性は腰痛のせいでほとんど歩けないのに、治療を求めようとしません。高齢者医療の新米だった私は、なんとかその腰痛を治したいと思い、あれこれ治療法を提案しましたが、男性は首を横に振るばかりでした。そしてニヤリと笑ってこう言うのです。
 「この腰痛は年のせいやから、どうしようもおませんな。これが治せたら、先生はよっぽどの名医ですわ」
 端(はな)から治してもらう気はなく、若気の至りで力む私を憐れむような、揶揄するような感じでした。
 それとは別に、八十二歳のある女性は脳梗塞で左半身不随になり、デイケアで懸命に歩行訓練のリハビリをしていました。その効果があって、入所時よりかなり状況が改善したので、私は励ます意味も込めて、「だいぶ速く歩けるようになりましたね」と声をかけました。
 すると、彼女は険しい顔でキッと私をにらみ、「もっとさっさと歩けるようになりたいんです」と応えました。彼女は右半身が自由で言語障害もなく、頭もしっかりしていたので、残っている機能を使えばいくらでも楽しむことができるのに、生来、まじめで努力家の彼女は、麻痺した左半身を回復させることで頭がいっぱいのようでした。
片や、別の七十九歳のある男性は、やはり脳梗塞でしたが、先の女性より症状は重く、歩行不能で車椅子を使っていました。リハビリをすれば、歩行器を使えるくらいに回復しそうだったので、スタッフや私が度々リハビリを勧めるのですが、本人にはまったくその気がありません。デイケアで入浴したあとなど、私が「身体を温めると筋肉がほぐれて、リハビリの効果も出やすいですよ」と勧めても、笑顔で手を振り、「車椅子が楽でええんですわ」と言うばかりです。
 杖歩行ができる先の女性と、車椅子の男性を比べれば、男性のほうが症状が重いのは明らかです。しかし、悩みや嘆きの深さは、症状が軽い女性のほうが重い。ふつうは病気の症状が重ければ悩みや心配も大きいはずです。それが必ずしも通用しないのが、高齢者の世界だと気づきました。
 さらに続きとなる<ご飯の上にオシッコをされたり、スリッパの上にウンコが載せてあったり…94歳の「老人デイケアのアイドル」>では、著者が経験したデイケアの出来事について語ります。
 *本記事の抜粋元・久坂部羊『人はどう老いるのか』(講談社現代新書)では、医師として多くの高齢者に接してきた著者が、上手に楽に老いている人、下手に苦しく老いている人を見てきた建研から、初体験の「老い」を失敗しない方法について詳しく解説しています。ぜひお買い求めください。
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