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2023年1月28日8:16 YAHOO!JAPANニュース webマガジン mi-mollet(ミモレ)「能力で選んだら男ばかりになりました」と言っているうちに誰もいなくなる日本【小島慶子】
時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。
「こんなやばい写真が」と、知人があるツイートの画像を見せてくれました。国会の議院運営委員会の写真です。テーブルをぐるりと囲むのは、全員男性。一瞬CGかと目を疑いましたがそうではないようです。大本営か! と突っ込みながら当時の写真を検索してみたら、本当にそっくりでした。東條内閣の写真も、もちろんおじさんオンリー。80年経った現在の第二次岸田内閣には、女性閣僚が2人。たった2人かーい。
ちなみに、先日「政治家も人間です」と語って辞任したニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相が2020年の再選後に組んだ内閣は、40パーセントが女性、25パーセントが先住民につながりのある人々、15パーセントが性的マイノリティの人々という、同国史上最も多様性に富んだ顔ぶれでした。首相在任中に産休を取得し、ムスリムを狙ったテロへの対応や新型コロナ感染症対策の手腕などが国際的に評価されたアーダーン首相ですが、政権終盤には国内のミソジニストや反ワクチンを訴える人々からの攻撃に晒されたと報じられています。
性別関係なく選ぶ=男性だらけ、になってしまう理由
写真:Shutterstock
最近は日本でも、男性だらけの会議や委員会は「異様な光景」「なぜ女性がいないのか」と批判されるようになりました。10年前と比べると、顕著な変化ですね。私も自分が呼ばれた場ではジェンダーバランスについて尋ね、女性が少なすぎませんか? と指摘するようにしています。
先日もある会合が男性ばかりだったので指摘したところ、定番の答えが返ってきました。「はい、これからは性別関係なく選ぶようにします!」。男だらけを指摘されると、人選担当者は大抵そう答えます。「性別関係なく!」に力を入れるのです。決して「男女半々にします」とは言いません。
どうでしょうか。あなたは、男が選んだ男だらけの顔ぶれは、「性別関係なく」選ぶようになれば変わると思いますか?
きっと、変わらないでしょう。なぜなら、男性だらけの顔ぶれでも問題ないと思っている人たちにとって、性別は最初から関係ないからです。彼らは、候補として男性しか想定していません。女性はいわば透明な存在。「人=男」という100年前と同じ世界観です。
そんな人たちが「性別関係なく」選んだ結果は、結局また男性だらけになります。そして言うのです。「性別ではなく能力で選んだら、男ばかりになりました。女性はもっと頑張ってください」と。いや、君こそ頑張って100年分追いつきたまえ。
数合わせで女性を登用するのではなく実力で選ぶ、という発言の意味するところは……
写真:Shutterstock
彼らは、自分に女性が見えていないこと、見ようとしていないことを問題だと思っていません。女は仲間に入れたくないという本音を変えようとはしないのです。女性に目を向けよと指摘されると、こう言います。「だったら俺たちの視界に入るところまで、女が頑張って辿り着きなよ」。数合わせで女性を登用したって、どうせ実力不足だろうという物言いも定番です。2020年には、経団連の副会長がクオータ制の導入にあっさり後ろむきな発言をしています。これが、男性だらけの世界の住人が口にする「性別関係なく選ぶ」という言葉の実態です。
目に映ったヒトのうち男性しか認識できないという極めて深刻な認知の歪みを根本から変えない限り、日本の男村状態は変わりません。「性別関係なく」決めるのではなく、「性別はうんと関係ある」と肝に銘じるのです。必要なのは、今まで透明な存在だった女性たちに注目するという、劇的な行動変容なのですから。
明確な意志を持って「女性を増やす」こと。最低でも、意思決定に影響を与える3割を女性に。クオータ制を導入するなどして、早期の5割実現を。今ほぼゼロなのに無理~~とか言わないで、やるったらやるんです。戦後の奇跡の復興と同じ覚悟と気合いでやるんです。
「さあさあどなたもいらっしゃい、今後は僕が性別関係なく選んであげます!」と両手を広げる男性に、丸め込まれてはいけません。そんなアピールには「ほほう、現状を変える気はないんだな」と座礁資産のマークをつけておく。そしてもし発言するチャンスがあるなら、光の速さで「いや、性別関係あります、ありまくりです!」と返しましょう。女性を可視化するのだと。
男だらけの会議や委員会はいくらでもあります。何度でも、どこに行っても隙あらば言い続ける。女性は透明な存在じゃない。単なる男性のお世話係でも、愛玩物や鑑賞物でもない。子を産む機械でもない。この社会を作っている一人の人間、働き手、意思決定者として、等しく扱われるべき存在なのだと。そうじゃないと、おじいさんが抜けた後にまたおじいさんが出てくる、イケイケ勝ち組男性の次にまたイケイケ勝ち組男性が出てくる……というサメの歯みたいな男村人事は、永遠に変わりません。
あ! これやるの、女性だけじゃないですよ。うんそうそうとか言いながら読んでいるあなた、そう男性のあなた! あなたも一緒に、男村ニッポンを開国するんです。職場の定例会議で女性たちがいつも端っこに座っているのをおかしいと思ったことがないなら、まずはそこからです。
優秀な女性がいないどころか、どんどんいなくなりつつある現状
写真:Shutterstock
男村の長たちはきっとこうも言うでしょう。「だって優秀な女性がいないじゃないか」。いますよ。見えてないんです、あなたには。かけてるメガネがピンボケなんです。男村の働き方に適応した人しか“優秀”と見做さない視野の狭さと認知の歪みが大問題です。しかし実際、女性がいなくなりつつあるのかもしれません。外務省の調査によると、昨年10月時点での日本人の海外永住者は過去最高のおよそ55万7千人で、前年よりおよそ2万人増。10年前と比べると14万人以上の増加。男女比を見ると、62%を女性が占めるそうです。
子供を持つ知人が「うちは女の子だから、国外に出られるようインターに入れないと」と切実な顔で語るのを何度も聞きました。私も若い女性には、性差別で貴重な時間を無駄にしないよう、もしチャンスがあるなら是非日本よりもジェンダー格差の少ない国で学んだり働いたりすることを勧めています。こうして女性は100年先も変わらないであろうメンズジャパンから静かに逃げて、もう戻ってこないのです。
同じことは地方自治体ですでに起きています。兵庫県豊岡市では、進学などで地元を出て行った若い人のうち、男性のおよそ半数は戻ってくるのに、女性は四人に一人ほどしか戻っていないことに気づきました。将来の人口減少に危機感を覚えてヒアリング調査を行ったところ、性別役割の押し付けや雇用や賃金のジェンダーギャップが、女性たちの足を故郷から遠ざけていることが判明。市は対策室を設置し、2025年までに地域連合会の役員の女性比率を3割にすると目標を設定しました。しかしコロナ禍に襲われ、市長選ではジェンダーギャップ解消ではなく、コロナ禍で痛んだ生活の支援を訴えた候補が当選しました。
賃金が上がらず、長引くコロナ禍と急激な物価高で生活不安の増す日本では、国政でも同じことが起きかねません。ジェンダーなんて理屈を言っている場合ではない、今は暮らし優先だ。あるいは安全保障上の不安を煽り、ジェンダーなんて呑気なことをと、問題を矮小化することもあり得るでしょう。ジェンダーギャップや性差別という日本の存続に関わる人権問題を「さほど深刻ではない課題」とする歪んだ現状認識こそが、社会を閉塞させ成長を阻んでいる元凶です。20年も前にジェンダーギャップの問題に気づいていたのに、数値目標の達成も果たせぬまま先送りして今に至る日本。その責任を“透明な存在”である女性の意識や努力のせいにして逃げ切ろうとする限り、いかに異次元の少子化対策を講じようとも、再び人々が活気を取り戻すことも、国が豊かになることもないでしょう。男だらけの集合写真はすでに当たり前ではなく、批判の対象となりました。これを“まだ野蛮だった頃の日本”の遺物として驚きをもって眺める日が、遠からず訪れますように。今が正念場です。
小島 慶子
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